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今世紀初頭の中国。 王(朱旭:チュウ・シュイ)は變臉(へんめん)の芸で各地を渡る大道芸人だ。 變臉とは四川省に伝わる川劇で瞬時に顔の面を変えていく技。 これは王一族、それも男子にのみ受け継がれていく芸である。 豊かな暮らしではないものの、自分の芸に誇りを持ち真っ当に生きている彼だが ただ1つ自分の芸を伝承するあと取りがいないことだけが気がかりだった。 そんな中、ついに王は1つの決心をする。 家が貧しく売りに出された男の子を買い、自分の後継者とすることにしたのだ。 彼のもとにやってきたクーワー(周任瑩 :チョウ・レンイン)を孫として可愛がる王。 しかしクーワーは実は女の子だった・・・。 一昨年四川省を旅行した時に川劇を鑑賞した。 生で目にした變臉の素晴らしさに心底魅了された。 どんなに目をこらしても仕掛けがわからないのだ。 この物語でも女だと知られたクーワーが興味から王の變臉の舞台支度を 覗こうとして王にピシャリと怒鳴られるシーンがある。 現実でも門外不出のこの芸の種明かしについては国家がらみで堅く守られているという。 物語に話を戻そう。 わかってはいても当時の男尊女卑の現実に目を見張る。 王が後継者の子供を捜しに行く洞窟。 ここでは市場さながらにまるで野菜を売るかのように硬貨数枚で子供が売買されている。 中には母親自ら「タダでいいからこの子を連れて行って!」と叫ぶ者もいる。 男の子は買い手がつくためそこにいるのは女の子ばかり。 そんな中、王に「連れて行って」と真っ直ぐな目で懇願するクーワー。 その真っ直ぐな眼差しからは子供ながら意志の強さが見てとれる。 クーワーを演じる周任瑩の存在感は主演の朱旭をしのぐほどだ。 女の子だという理由で何度も捨てられたクーワーは男の子として振舞うことを 子供ながらに学ぶ。 しかしそんなウソは隠し通せるはずもなく、やがて王の知るところとなる日が来る。 根っから善人である王は愕然としながらもクーワーを見捨てることはできない。 だが関係は「祖父と孫」から「ご主人様と召使い」へとあからさまに変わる。 相手は子供だよ・・・なんともやり切れない思いが胸に広がる。 それでもクーワーは王を慕い、必死に彼につくす。 しかしそれがことごとく裏目に出るのだ・・・子供ゆえ。 その結果王が全てを失っていくことになるのは何とも皮肉な運命だ。 それでも王という人間は自分に降りかかる運命を静かに受け入れていく。 クーワーに対しても決して責めることなくこう言う。 「ワシはきっと前世でお前にひどい仕打ちをしたから今こうして報いを受けているんだ」 そこにあるのは大きな心なのか、それともあきらめなのか。 王とクーワーの物語を中心に中国の伝統芸能についても丁寧に描かれた本作で もう1人(1匹)素晴らしい役者がいる。 王が飼う猿の「将軍」だ。 彼は仕事でも王のパートナーであり、私生活でも王を支え寄り添って生きていく。 クーワーが女の子である現場を目撃した将軍は「よ、よもやまさかっ!」と大きく驚く。 (ウソではなく本当に驚く顔がアップになるのだ!) クーワーが消えると引き出しから王とクーワーが仲良く映った写真を取り出し 王に渡し「彼女はいづこへ?」と問う。 暗く重くなりがちなこの作品の中で将軍の愛らしい存在は大きい。 ラストシーン。 2人が仲良く舟をこぐ姿におそらく劇場内の誰もが涙をぬぐったのではないだろうか。 この作品を大きなスクリーンで観る機会を得たことに感謝したい。 1996年 中国・香港合作 <中国映画の全貌2009>にて鑑賞
by sabunorihk
| 2009-03-29 01:01
| 香港映画 は行
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